前の記事の通り、今春入試の5教科平均点は293点で、第一次選抜・第二次選抜というかたちになった今の制度の中で過去最低の平均点となりました。しかし、過去最高に難しくなった印象があまりないと前の記事で書きました。それには得点分布が関係しているのではないかというのがこの記事の出発点です。

以下は過去10年間の岐阜県公立高校入試の5教科合計点の得点分布です(この分布は県教委の公表データに基づいて作りましたが、県教委はこの分布を全日制の受検生限定で作っています。全日制限定になるとこのサイトのページに掲載している平均点(定時制なども含む全受検生が対象)よりも5点前後高くなるのが普通です。)

10年分並べると壮観ですが、どうなっているのかわからなくなりますね。まずは過去最高の平均だった昨年春の入試(令和4年度/2022年春)と比較してみましょう。

過去最高×過去最低…これだけ平均が違うんですから分布も当然違うというところでしょうか。ただよく見ると、350点~450点の層が昨年と比べてごっそり減っていることがわかります(今年が少なかったというよりも昨年・2022年春が多すぎたのですが)。400点程度が合否のボーダーという高校の受検生は入試が終わった後、昨年とのあまりの違いに仰天したもしれません。問題を作っている県教委は2年続けて出題ミスを出してしまっていましたので、まずはミスのない出題が至上命題で難易度の調整までじゅうぶん神経が行き届かなかったのでしょうか。

次に平均点が2023年春に近い数字だった(今年同様に低かった)令和2年度入試(2020年春)とこの春の入試(令和5年度入試/2023年春)を比較してみました。

平均点は3点しか変わらないのにずいぶん分布が違いますね。このサイトの入試平均点のページをご覧いただければわかりますが、各教科の平均も今年と似たり寄ったり(国社がわずかに易しく、数理がわずかに難しい程度)。なのに2020年春はこの春(2023年春)と違って450点以上が少なかったのです。逆に言うと、今年は平均点が低いといっても高得点者はそれなりにいたということです。200点台後半~300点台の子が今年は少なかったんですね。その代わり250点未満の子が増えています。コロナ禍が学力格差を生んだと世間で言われましたが、それが出ている結果といえるのかもしれません。

次に見るのは平成29年度入試(2017年春)との比較です。この年の平均点は305点でしたから、この春(2023年春)より10点以上高かったわけですが…

400点以上の生徒は今年とあまり変わりません。違うのは300点台の生徒が今年よりも多く300点未満の生徒が少なかったこと。それで全体の平均が今年よりも10点以上高かったということですね。逆に言うと、この春の入試は5教科合計400点以上で争っている高校の受検生にとっては言うほど難しい入試ではなかったが、300点台で争っている受検生にとっては難しく感じた入試とも言えます。

実は2017年春(平成29年度)は数学がひじょうに難しい年で(平均41点:過去最低)、反対に国語がひじょうに易しい年でした(平均77点:過去最高タイ)。ですから上位層が穴をあけず高得点を並べるには数学がネックになり厳しく、中~下位層の子は国語がとても易しかった分、点が稼げたんですね。

ここで最初に見たグラフをもう一度見てみましょう。

お気づきでしょうか。わかりにくいですが200点未満の層で一番上に飛び出して膨らんでいるのが今年(青線・令和5年度/2023年春)です。今年の「難しさ」はおもに成績的に下のレベルの子が増えた結果といってもいいかもしれません。これまで易しい~かなり易しい年が多かった国語・理科・社会が若干難化した(といっても平均6割という標準的な難しさに近づいただけという)のが影響しているでしょうか。英語・数学は以前からずっと上下格差が大きく出る教科です。先ほど述べた「コロナ禍でできた学力格差」なのかどうかは教育社会学者ではないので分かりません。

今年は過去最低の平均点でとっても難しい入試でしたとは一言で片づけられませんという話でした。成績レベルによって感じ方が違ったように思います。平均点だけでは分からないことがいろいろあります。解答速報の予想平均が多少下げ幅を読み違えた(予想以上に実際は下がっていた)のも、これで何となく納得がいくところです。